日本災害医療薬剤師学会設立15周年記念日に際して
本日は日本災害医療薬剤師学会創立15周年記念日なので、沿革を記載しようと思います。
本学会設立に至った経緯は2004年10月23日(土)に発生した新潟県中越地震に始まります。発災直後、地元新潟県薬剤師会の会員薬剤師が長岡市薬剤師会館を現地対策本部としてボランティア活動を開始し、そこへ全国から薬剤師が集結していました。1995年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)を経験した兵庫県からも救援に来ていました。
私自身1995年の阪神淡路大震災に際して、日本薬剤師会が募集した薬剤師ボランティアに村野宏守氏と共に応募しましたが、派遣されませんでした。その経験がありましたので、発災翌日には現地に入ってボランティア活動に参加しようと決意し、被災3日目に新潟県薬剤師会に電話し、現状と必要な物資を訊ね、準備に入りました。本来ならば日本薬剤師会や東京都薬剤師会に相談すべきなのかもしれませんが、自らの責任で現地入りを決断しました。実は中越地震発生の2ヶ月程前に私が所属する杉並区薬剤師会(東京都)で我が国最初の薬剤師会主催の災害時医療研修会を開催致しました。そのような訳で座学に留まっていては研修の意味は無く、行動に移してこその研修との思いが決心させました。マスコミ報道では知り得ない被災地の現状を目にする事が出来ましたし、後に志を同じくして学会設立発起人となる増田道雄氏、山岸美惠子氏との出会いもあり、私の選択は正しかったと思います。
その後同年12月にインド洋地震大津波が発生し、村野宏守氏、西澤健司氏、渡邉暁洋氏、加藤あゆみ氏が国際緊急援助隊医療チ-ム(JMTDR)の一員として派遣されました。2005年2月19日に杉並区薬剤師会主催で中越地震やスマトラ大津波での活動報告を中心とした2回目の研修会を開催し、終了後の懇親会で意見交換の中から第38回日本薬剤師会学術大会での発表、あるいはシンポジウムの提案を行おうと話が盛り上がり、翌々日私が開催県である広島県薬剤師会へ提案のメールを送信したところ、数日後に返信があり、開催県として同様のプランを検討していたが、適当な人物が見当たらず困っていたところだったので貴殿にその気があるならば検討して戴きたいとの内容でした。
村野氏に相談したところ、是非受けるべきだと助言を受け、上京時にお会いしました。私なりのプランを提示して、シンポジストの人選については御一任戴きたいと申し上げ、了解して戴きました。さっそく村野氏と相談し、現地の代表として山岸氏、支援活動の代表として増田氏、中越地震とスマトラ地震大津波の両方での活動で村野氏、JMTDRの活動で西澤氏、自治体支援面から杉並区防災課長森田氏を候補として広島県薬剤師会へ連絡し、内諾を得ました。
日本薬剤師会の学術大会は得てして各種イベントで終わってしまう事が多いので、私としては単なる一過性のイベントで終わらせてしまうのは勿体なく思い、薬剤師の災害医療の普及啓発の場にすべきと考え、シンポジストの方達と相談して後の世に残る団体や組織を作りたいと思いました。
そこで3段跳びに擬えて、ホップとして学術大会、ステップとして中越地震一周年記念シンポジウム(新潟県薬剤師会主催)を開催して戴き、その場で半年後の学会設立構想を発表し、ジャンプとして、増田道雄、村野宏守、多田 治の3名が設立基金として各自10万円を拠出し、2006年4月23日(日)にホテルサンメンバ-ズ東京新宿コンベンションホールを会場として設立総会を開催しました。
参加者は40数名で順風満帆の船出とは言えませんが、確かに「その時歴史が動いた」のです。
その後、能登半島地震、中越沖地震、岩手宮城内陸地震、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、熊本地震等の地震災害だけではなく各地で水害も発生し、薬剤師の災害医療の必要性が認識され、最近では日本薬剤師会学術大会でも災害医療がテーマに取り上げられるようになって来ました。
これも本学会が存在している事も影響しているのではないかと思います。また、各地で発生した自然災害の影響だと思いますが入会してくれる薬剤師も増加しました。役員の方達の尽力により、研修会や学術大会、シンポジストが開催され、学会としての体裁も整ってまいりました。
そんな矢先、新型コロナウイルスの流行拡大により現在本学会の研修会も学術大会もシンポジウムも対面での開催が残念ながら難しくなっています。昨夏に開催予定でした第9回学術大会も延期を余儀なくされましたが、組織委員や実行委員の尽力により本年7月3日(土)4日(日)の2日間、一年遅れとなってしまいましたが、新潟薬科大学を会場にリモ-トによる学術大会を開催する運びとなりました。
開催地である新潟県は前述の通り本学会設立に関わり深い地であります。新型コロナウイルスという災害に関する発表も含まれておりますので、会員は勿論の事、そうでない方も是非御参加下さい。
2021年4月23日
日本災害医療薬剤師学会設立発起人
副会長 多田 治